僕の兄は東京に住んでいて、今度母が兄の家へ行きたいというので、じゃあ行きましょうときめて予定を立てたんですが、直前になってやっぱり行かないというので、結局僕一人で行くことになりました。
漱石の墓へ参る
前にもこの記事で書きましたが、東京は文人の墓がたくさんあるので、そこにお参りするのも結構面白いものです。
この日は西早稲田の駅でおりて早稲田通りの古本屋を覗きました。
早稲田の古書店街に行ったのは初めてでしたがよいところでした。
今度の滞在でも神保町へは行きましたが、なんとなく品揃えが悪いなと思って、早稲田のほうへ行ったわけです。
あとで先生にきいたら「夏枯れですね」と言っていました。夏枯れというのは夏のこの暑い時期古本屋の品揃えが悪いというのか面白くないというのか、そういうような状態になることをいうらしい。
で、早稲田通りを東の方へ歩いて、途中小泉八雲の伝記(これはおそらく珍しい)やら柳田國男の日本語に関わる本やらを買いました。
この柳田國男の本を買った店は店頭にワゴンセールをやっていて、50円の箱と、これが初めて見たのですが、20円の箱がおいてありました。
柳田の本は50円で買いました笑
道が南の方へそれるところで、北へ向かって、関口のほうへ抜けました。
橋を渡ったところへ高台にあがる長い階段があって、少しあがったところに芭蕉が住んでいたという関口芭蕉庵があります。
残念ながらこの日はしまっていて、「本日休庵」の立て札がありました。
休庵というのは初めて聞きました笑
この日も気温30度を超える日でしたが、両側を塀と薮とに囲われたこの階段には、林のひんやりした空気が流れていました。
きっと江戸の夏というのはこういう感じがあったんだろうと今の灼熱地獄と比べてしみじみとしました。
階段を登りきって大きい道路へ抜けたところで、
そういえばこのあたりに菊池寛や窪田空穂も住んでいたらしい、
あまりの暑さにコンビニ休憩しつつ、北東へ向かい護国寺の方へ歩きました。
関口やこのあたりは数年前にも野間美術館などと合わせて見にきたことがありましたが、そのときとはまたすこし違った印象で、護国寺もこんなものだったかと思われました。
この炎天下、護国寺の前では道路の補修工事か何かをやっていて、道路を固めるために火炎を放射して、重いタイヤのついた車でつぶしていました。
この暑さのせいか、護国寺にはほとんど人がおらず静かで、本堂を一目拝見したあと、本堂の西側を通り裏の墓地を抜けて雑司が谷の方へ行きました。
雑司が谷霊園
雑司が谷霊園には有名な文人の墓がいくつかあります。
今回は前から行きたかった漱石の墓を目的にいきました。
護国寺のほうから墓地に入ると漱石の墓は奥の方にあり、ほとんど霊園を縦断するくらいです。
ややおおきい通りに面した交差点の角にある比較的大きな墓石に夏目家の人の名前が刻まれています。
中に入って墓石の正面に回ると漱石の戒名があります。
「文獻院古道漱石居士」
墓石には「清」の名前もあって、坊ちゃんにでてくる同名とかかわりがあるのか知れませんが、たしかあの清の墓は神楽坂あたりにあるんじゃなかったかと思います。
僕は漱石の心持ちにいたく感心することがあって、それは日本を代表する作家なのだから当たり前なのかもしれませんが、漱石の書いた文の味わいに胸を締め付けられるような想いがします。
それで漱石には感謝の気持ちから墓参りがしたいと常から思っていました。
真夏の凪いだ日でしたから蚊に螫されるのを恐れてあまり長居しませんでしたが、よい思い出になりました。また今度ヂアスターゼでも持って行きましょう。
それから北のほうへ向かい墓の連なるところを東へ入っていくと奥の方に小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)の墓があります。
はじめ見つけられなくてそのあたりをぐるぐるまわっていましたが、小泉の名前を見つけると、墓前にひまわりが活けられていました。
これはきっとハーンのファンがKwaidan(怪談)中のHimawariから選んだものだとすぐわかりました。
「正覺院殿浄華八雲居士」
と刻まれています。
ハーンの墓は漱石のものほど大きくはありませんが、風情の感じられるものでした。
このあと僕はほとんど熱中症になりながら雑司が谷の駅まで歩いて宿へ帰りました。
余談
この前日僕は日暮里を降りて谷中の霊園へ行きました。
上野あたりはよく歩きましたが、谷中へ入ったのは初めてで、芭蕉の「上野谷中の花の梢またいつかはと心細し」を思い出してしみじみとしました。
谷中の霊園には露伴の五重塔のモデルになった五重塔の跡があります。この五重塔はこのあたりで一番高かった建築物で戦後まで残っていたそうですが、昭和30年代に放火されて焼失したようです。
先生はこの五重塔を見たことがあるようでした。
霊園には五重塔跡への案内があってそこへ行くと、すぐ目の前に交番があってそこで巡査と老婆と中年の男がなにやら言い合っています。
聞きたくないが聞こえてくる老婆の酷い罵り。
せっかくの五重塔跡が台無しになっては困ると急いで交番横を通って跡地へ入りました。
幸いここまでは声が届かず落ち着いて見られると思ったら、柵で囲われた基礎の上をエンジンのついた草刈機で轟音たてながら草刈りする男がいて、僕の風情も轟音とともに刈り取られました。
呆然とその様子を見ていたら右腕を蚊にくわれて、悔しい気持ちで五重塔跡を後にしました。
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