僕がふだんほとんど漫画を読まないない人間で、文字だけのつまらない本ばかりを読んでいることはこのブログを少しさかのぼればわかります。
ですから漫画に関してあれこれいうこともないのですが、僕が最近ムーミンコミックスを読んで改めて感じたことをムーミンコミックスの魅力と共に紹介します。
ムーミン・コミックスの魅力
今回は筑摩書房が出版したムーミン・コミックスのうち、第12巻の「ふしぎなごっこ遊び」をとりあげます。
※その漫画中からこの記事にいくつかのコマを画像の形で引用します。
コミックスならではの面白さ
気楽な漫画をなにか思索してしまうようですが、つまらない本と比較すると面白い差があったというだけの話なので、この記事も気楽に読んでください。
1, コマ
漫画は文字と共に絵が主体で、場面々々が線で区切られています。
あたりまえですが、このつくりが文字だけで書かれたものと大きく違います。
原作ムーミンの小説の中にも挿絵がはいっていますが、挿絵はその場面のイメージを強めるに留まるものですから、(このひとコマ目のムーミンのように)視覚的な面白さを第一に追求することはできません。
この一連の部分は全く視覚的な面白さを持つ部分で、なにかリズムのようなものさえ感じます。
2, セリフによる絵
上の場面では紙をつかまえる一連の”動き”を絵によって追っていて、セリフはその動きを助けています。
しかしここではそれが逆転してセリフが絵をつくっています。
場所が台所→床→庭と変化していますが、これは絵が一続きなのではなくて、
- 料理=遭難
- 掃除=大地震
- 庭の管理=ジャングルだからしない
という内容の並列関係に絵が従っています。
3, 論理の飛躍
小説はふつう同じ場面であるかぎりなだらかに話が繋がっていきますが、それと比べると漫画は、これまで見てきたコマでわかるとおりコマとコマの間に、そして同じコマの中にも大きな”隔て”があります。
このコマなどわかってしまえばよくわかりますが、ちょっと難しいつくりをしています。
ミーサは自分の半分ほども背丈があるじょうろをふらふらと持ち上げて花に水をやろうとしました。そこへムーミンとスノークのお嬢さんが「ミーサの水やりの手伝いをしよう」とホースをもってやってきました。
というのが一こま目に書かれていることですが、これをたった一こまから読み取るのは実は結構な推理力が必要なことだと思います。
そしてムーミンが水をぶちまけるのですが、水をかけられて「火事だ!助けて!」というのもすぐに理解できますが、相当論理が飛躍しています。
4, テンポの速さ (まとめ)
これまでみたこと、特に3番目に書いたことによって、コミックスの話は非常にテンポよく進んでいきます。
あるコマからあるコマへ行くときに、次のコマの内容を見てその間にあったことを知るわけで、その結果をみて過程を知るというのが、特殊で面白いところです。
次々にコマを見ていく中で、そういう絵の面白さ、構造の変化、論理の飛躍、過程と結果の逆転、そしてヤンソン独特のユーモアが、リズムよく現れるのがムーミン・コミックスの魅力です。
ムーミン・コミックスについて
ムーミンシリーズはもともと小説の形で書かれたものです。
コミックスは1954年からトーベ・ヤンソンと弟のラルス・ヤンソンがロンドンの「イヴニング・ニュース」に連載したものです。
文章のムーミンは1970年まで書かれましたから、それに並行してかかれたことになります。
1960年以降はラルスがひとりで連載したので、トーベ作でないものもあります。
イギリスの新聞にはもちろん英語で掲載されたでしょうが、日本で出版されているものはスウェーデン語から翻訳されたものです。
翻訳者
コミックスの翻訳者は哲学者の冨原眞弓さんによるもので、僕はとてもよい訳だと思います。
冨原さんはトーベ・ヤンソン本人と交流があった人で、ムーミンシリーズの他のヤンソン作品も翻訳しています。
ムーミンシリーズは「小さなトロールと大きな洪水」だけを訳しているので、他の小説も冨原さんが訳すとよいのですが・・・
コミックス全巻&価格
ムーミンコミックスは筑摩書房から全14巻出版されています。
- 黄金のしっぽ
- あこがれの遠い土地
- ムーミン、海へいく
- 恋するムーミン
- ムーミン谷のクリスマス
- おかしなお客さん
- まいごの火星人
- ムーミンパパとひみつ団
- 彗星がふってくる日
- 春の気分
- 魔法のカエルとおとぎの国
- ふしぎなごっこ遊び
- しあわせな日々
- ひとりぼっちのムーミン
上に書いた理由でラルスの手によるものもありますが、それぞれの巻に三話ずつ(よくいえば)バランスよく収められています。
これは今回紹介したふしぎなごっこ遊びが載っている巻で、価格は1,296円です。
値段はすべての巻で同じです。
全巻セットもありますが、こちらは18,144円です。
全部そろえると結構な値段になりますね。
装丁
ムーミン・コミックスはハードカバーの立派で綺麗な本です。
中扉に色つきのページがあり、本文もきれいな印刷です。
ビニール加工された紙のカバーをはずすと別のかわいらしいカラーの絵柄がついています。
これだけちゃんとしたつくりなら少々値が張ってもしかたがないかなあと思います。
残念な点
ムーミン・コミックスのつくりはほとんど満足なのですが、ひとつ残念なところがあります。
それは日本語が完全に活字体で印刷されていることで、吹き出しの中はまだよいとして、このコマの「歓迎!」などみると絵から相当”浮いている”感じがします。
原作はみたところおそらく手書きで書かれていて、絵になじんでいます。
あとがき
この記事は読んでみるとこんな発見があったよという軽い気持ちで書いているもので、みなさんこう読んでくださいというものではありません。
ただたとえ漫画であってもどう描かれているか少し注目するときっとより面白くなるのでしょう。
僕は初めに書いた通りほとんど漫画を読まないので詳しくないのですが、こういう味わい深い漫画なら読んでみたい。詳しい人に聞いてみたいですね。
コミックスは原作よりも気楽な、楽しい雰囲気をもっているので、子供の読書用によいと思います。またつくりがしっかりしているので、プレゼント用にもおすすめです。
内容はとにかく面白いので機会があれば是非読んでみてください。
ムーミンシリーズについてはこの記事にまとめました。
ムーミンシリーズとトーベ・ヤンソン
僕は第一作の「小さなトロールと大きな洪水」を英語で読んだのがムーミンを読んだ初めで、残りもいくつかを除いてほとんどを英語で読んだ。
読んでいてどうもよくわからないところに頻繁にぶつかった。
ぶつかってどうにもわからないときは日本語訳を参考にみたりしたが、面白いことに僕が英語で読んでわからない通り、日本語で読んでもよくわからないことが多かった。
なんというか、”同じようにわからない”のである。
言葉にはなっているけれど意味が繋がらない、という感じ
シリーズを全部読み終わって全貌が見えたときに、ムーミン=ヤンソンの特徴というべきものがわかってきた。
こういうことの他に、つまり同じ物語中よりも、巻と巻の間にある矛盾というか、とにかく話のつながらなさがある。
つまりこういうことなのである。
ムーミンシリーズはキャラクターこそ同一なれ、巻が違えば別物。話の筋よりは、一種なにかの”感じ”に重きがある。
ムーミンシリーズを読んで反省したときに、僕、あるいは現代人といってもいいかもしれないが、小説というものに、いつも強靭な筋を求めていることに気が付いた。
他のなによりも話の筋の正確性と意表をつく仕組み、劇的な展開をのぞんでいるのである。
そういうある種のゆがみに過敏で嫌悪感をもよおすのは、遠近法を正確に使った絵画のみに最高の評価を与えるようなものだろうが、実際そういう読み方をしている人は多いだろうと思う。
漱石が草枕で目指したものはそういう読み方では全く感受されない。
シェイクスピアの作品にもそういう話の矛盾がたくさんある。
トーベ・ヤンソンの作品と、そして人柄を知ると彼女がそういう頑迷なありかたと対極にいたことがわかる。
ムーミンシリーズは常にトーベ・ヤンソンの心、考え、思想を表すものとして毎度新たに作られたものなのである。
その時そのときの表現すべきことに合わせて、ムーミン谷は形を変えて現れているいうわけ。
トーベ・ヤンソンとムーミンワールドはいつでもユニークと、風刺に満ちた世界を見せてくれるのである。
2.セリフによる絵、○○のつもりという設定からしてわくわくしますね~!想像の世界で遊ぶ自由な感性、日々をわくわくさせるヒントがムーミン谷にはありそうだな~。安野モヨコの「オチビサン」はどうでしょう。少しテイストが似ているかな…??1巻だけ持っていますが、オールカラーと手描きで絵柄に温かみがあります。
わたしもあまり漫画を知らないので、ほんわかムードでウィットの感じる漫画があったら知りたいです。
オチビサン試し読みhttps://ochibisan.com/read/1/
chiipuriさん
ムーミン族はいつもお気楽で僕は大好きですが、もしかすると肌に合わないという人もいるかもしれません。
「オチビサン」を教えていただきありがとうございました。さっそく試し読みしてきました。こういう漫画を見つけるのはなかなか難しいですよね。