最近毎日一回歌詞をみながら菩提樹を聴いていました。
何か習慣のごとく座布団に座ってトラック5を再生する・・・
みなさん菩提樹は聴いたことがありますか。
僕がここのところ菩提樹を聴くようになったのには、まあ少しだけ面白い経緯があるのですが、それはとりあえずおいておいて曲と歌詞を玩味しようというのが今回のテーマです。
一体こういう歌というのは詩に曲をつけたものですから、詩がわからないと価値の半分が失われてしまいます。
毎日きいていて、曲はもちろんのこと詩も非常によいので、今回紹介しようというわけです。
菩提樹をドイツ語で聴く
シューベルトは二つの歌曲集を残していますが、「菩提樹」はその二つ目≪冬の旅≫の中の一曲です。
冬の旅は1827年に作曲されましたが、詩を書いたミュラーはこの年33歳で夭折、シューベルトも翌年31歳で亡くなります。
冬の旅は全24曲でなりたっていて、菩提樹はその5曲目に当たります。
シューベルト作曲「菩提樹」
聴いてみる
とりあえず聴いてみます。
ホ長調、4分の3拍子 Mäßig(ほどよい速さで)
Dietrich Fischer Dieskau Der Lindenbaum Die Winterreise
歌はフィッシャー=ディースカウ
この動画は英語字幕がついていて面白いですね。
ピアノの伴奏が、風にざわめく菩提樹のような印象を与えますが、これはおそらくそういう効果を狙っているでしょうね。
歌詞
1
Am Brunnen vor dem Tore
アム ブルンネン フォル デム トーレ
da steht ein Lindenbaum,
ダー シュテート アイン リンデンバオム
ich träumt’ in seinem Schatten
イッヒ トロイムト イン ザイネム シャッテン
so manchen süssen Traum,
ゾー マンヒェン ズューセン トラオム
ich schnitt in seine Rinde
イッヒ シュニット イン ザイネ リンデ
so manches liebe Wort,
ゾー マンヒェス リーベ ヴォルト
es zog in Freud’ und Leide
エス ツォーク イン フロイト ウント ライデ
zu ihm mich immer fort.
ツー イーム ミッヒ イムメル フォルト
2
Ich mußt auch heute wandern
イッヒ ムスト アオホ ホイテ ヴァンデルン
vorbei in tiefer Nacht,
フォルバイ イン ティーフェル ナハト
da hab ich noch im Dunkel
ダー ハープ イッヒ ノッホ イム ドゥンケル
die Augen zugemacht ;
ディー アオゲン ツーゲマハト
und seine Zweige rauschten,
ウント ザイネ ツヴァイゲ ラオシュテン
als riefen sie mir zu :
アルス リーフェン ズィー ミル ツー
komm her zu mir, Geselle,
コム ヘル ツー ミル ゲゼッレ
hier findst du deine Ruh.
ヒール フィントスト ドゥー ダイネ ルー
3
Die kalten Winde bliesen
ディー カルテン ヴィンデ ブリーゼン
mir grad ins Angesicht,
ミル グラート インス アンゲズィヒト
der Hut flog mir vom Kopfe,
デル フート フローク ミル フォム コプフェ
ich wendete mich nicht.
イッヒ ヴェンデーテ ミッヒ ニヒト
Nun bin ich manche Stunde
ヌーン ビン イッヒ マンヒェ シュトゥンデ
entfernt von jenem Ort,
エントフェルント フォン イェーネム オルト
und immer hör ich’s rauschen :
ウント イムメル ヘール イッヒス ラオシェン
Du fändest Ruhe dort.
ドゥー フェンデスト ルーエ ドルト
※カタカナによる発音は目安です。
日本語訳と解説
1
Am Brunnen vor dem Tore
AmはAn demを短くしたもので、Am Brunnenで泉のほとり
vorは~の前 Torは門(格変化でeがついている)
門の前、泉のほとりに
da steht ein Lindenbaum,
steht ein Lindenbaum 菩提樹が立っている
daは場所を表して そこに
(一本の)菩提樹がたっている
ich träumt’ in seinem Schatten
ich träumt’ 私は夢をみた ich träume私は夢を見る、の過去形 ’はe省略
in seinem Schatten かれの陰の中で かれとは菩提樹のこと
そのかげで私は夢をみた
so manchen süssen Traum,
manchen süssen Traum 多くの甘い夢
soは・・・強調でしょうか
多くの甘い夢を
ich schnitt in seine Rinde
schnitt schneidenの過去形で切った
Rindeは樹皮
私はその樹皮(幹)に刻んだ
so manches liebe Wort,
数々の愛の言葉を
es zog in Freud’ und Leide
es zog zogはziehenの過去形 それはひいた
in Freud’ und Leide 喜びのときも悲しみの時も
嬉しい時も悲しい時も(それはひいた)
zu ihm mich immer fort.
zu ihm かれのところへ かれは菩提樹
mich わたしを
immer fort いつも、絶えず
わたしをいつもそこへ
上行と合わせて
それが、嬉しい時も悲しい時も、絶えず菩提樹のもとへ私をひきつけた。
となります。
「それ」というのは単純に考えれば刻んだ言葉にみえますが、さてどういうことでしょうか。
2
Ich mußt auch heute wandern
mußtは英語のmust(ただし意味は過去) ~せねばならなかった。
auch heute 今日もまた
wandernは歩く
私は今日もまたあるかねばならなかった
vorbei in tiefer Nacht,
vorbei (近くを)通りすぎて
in tiefer Nacht 深い夜に、夜も更けたころ
深い夜に、そばを通って
da hab ich noch im Dunkel
noch im Dunkel 未だ、猶暗い中 改めていって暗闇を強調している感じ
闇の中でわたしは(~した)
die Augen zugemacht ;
(両の)目を閉じた。
zugemachtはhab(e)と対応して、完了等を表す形
und seine Zweige rauschten,
und 英and そうすると
seine Zweige かれの枝が
rauschten rauschenの過去形 ざわざわいう
そうすると菩提樹の枝がざわざわと鳴る
als riefen sie mir zu :
als 英as ~のように
riefen rufenの過去形 riefen ~zuで呼びかける
sie 女性名詞をさす代名詞 枝のこと
mir 私に
私に呼びかけるように
komm her zu mir, Geselle,
komm her ここへ来い 命令形
Geselle 仲間のこと
ここへ来なさい、同朋よ
hier findst du deine Ruh.
hier 英here
findst du (親しい人に向けて)君は見つける
deine Ruh 君の安らぎを
ここで、君は安らぎを見出す
3
Die kalten Winde bliesen
冷たい風が吹いて
mir grad ins Angesicht,
grad 直に
ins Angesicht 顔(詩的な言い方)に
顔にむけて
der Hut flog mir vom Kopfe,
der Hut flog 帽子がとんだ flogはfliegenの過去形
mir vom Kopfe 私の頭から 直訳でいえば私から頭からになるが、ドイツ語ではこういう
帽子が私の頭からとんだ
ich wendete mich nicht.
私は振り返らなかった
wendeteはwendenの過去形で何かの向きを変えること ここでは自分(mich)の向きを
Nun bin ich manche Stunde
nun さて、今や 何か場面なのか気持ちなのか、とにかく一新した感じがある
manche Stunde 長い間
今や、わたしは長い間(~いる)
entfernt von jenem Ort,
entfernt (何かから)遠ざかって
von jenem Ort あの場所から
あの場所から遠ざかって
und immer hör ich’s rauschen :
immer いつも
hör ich’s rauschen ’sはesそれ 私はそれがざわめくのをきく
そして(それでも)いつもわたしは菩提樹がざわめくのをきく、
Du fändest Ruhe dort.
dort 何か場所をさして そこ
君はそこに安らぎを見出す(、と)
感想やらなにやら
この詩はどうでしょう、人によって捉え方がちょっと変わるかもしれません。
曲調は中間部分の暗さ、厳しさはあっても全体的には明るいものです。
しかし、結局「わたし」は菩提樹のもとにはいませんし、過ぎゆく何かを振り返ってみることもしない。
ここのところにこの曲の聴きどころがあるのではないでしょうか。
菩提樹はややあかるいものの、冬の旅は全体的に暗く、当時あまり評価されなかったようです。
それでも現代においてはシューベルトの曲のうち最も評価され、人気のあるものですから、やはり何かひきつけるものをもっているのでしょう。
フィッシャー=ディースカウは何度もこの曲を録音しているようですね。
僕もフィッシャー=ディースカウ盤をもっていますが、すばらしいものです。
録音を手に入れるとき迷ったら彼のものをおすすめします。
終りに
今回は冬の旅から「菩提樹」を紹介しました。
これまでほとんど菩提樹だけを聴いていたので、今度は他の曲をもう少し聴いてみようと思います。
何かこうじっくり聴いてみるというのもたまにはいいかもしれません。
楽譜や歌詞をみながらあれこれ考えていると、曲に対する理解が深まりますしなにより愛着がわきます。
たとえ一曲でも、好きな曲があるというのは嬉しいことですよね。
シューベルトは今まで三回とりあげましたから、よければ他の曲も聴いてみてください。
前回の記事↓
では今回はこのへんで、さようなら
まだCDというものが世に出る前の学生時代
小宮豊隆の息子さんが独逸語の先生で、クリスマス前の或る日、カセットテープ(たぶんディスカウ録音)持参の先生とともに授業でこの歌を歌いました。
藁半紙にプリントされた歌詞を、ざっと音読してからと記憶してますが、きつねさんの解説ほど丁寧ではなかったと思います(笑。
それ以来、冬が近づくと『冬の旅』を聴くようになりました。私のCDは、ディスカウ&若きペライアさんのものですが、ピアノがとても優しく響いています。
すっかり忘れた独逸語を思い出して、CDと一緒に歌いたくなりました。
もえぎさん
僕の解説は一応ドイツ語が全く分からない人を想定していますから、要らないことまでたくさん書いてあると思います。ドイツ語の教室では寧ろ説明しすぎないくらいがよいのかもしれません。
教室で聴く冬の旅というはまた格別でしょうね、カセットに藁半紙というのがまたよいです。
今はドイツ語を習う人も少ないでしょうし菩提樹をかける先生もいないでしょうね。
古い物を読んで聴いていたということが古くなったようです。