前回の山登りの話は一応独立させはしましたけれど、僕の中ではちょっと面白い繋がりがありました。というのも『一葉の「たけくらべ」を読む』で書いた通り漱石の「草枕」を読んでいたからです。
まあ無理に繋げる必要もないのですが、少しだけ前回の続きとして書いてみます。
非人情の世界を描く、夏目漱石の「草枕」を読む
初めてともいえる登山をインスタントに済ませたあと、一行は途中にあるカレー屋へよりました。
その中の会話で、山の話やら何やらをしていたのですが、僕が山女さんに、
漱石の草枕は、そういえば、山登りの話ですよ。
と言うと、山女さんは知らない様子。
先生は、
国語で読みませんでしたか。冒頭の非常に有名な・・・
などといって冒頭の句をよみました。
山路(やまみち)を登りながら、かう考へた。
智に働けば角(かど)が立つ。情(じやう)に棹(さを)させば流される。意地を通せば窮屈だ。兎角に人の世は住みにくい。
山登りの話とはいっても冒頭山道を行く場面があるだけで、話の中心はその後留まる宿です。
僕の山登りは急な坂に足元ばかり気にしたようなものでしたが、草枕の山路は歩きにくいところがあるものの色々と考える余裕のあるところをみるとそこまで険しい場所ではないようです。ただ易く越えられるところでもないようですが。
その山路を越えたところに目的の温泉場があります。
温泉場の主人の娘の御那美さんとその周辺と語り手とのやりとりで話はできています。
話の題は”非人情”
初めからやたらとものを考えています。
話の題は初めから終わりまで、「非人情」、まあまたは人情についてで、この“非人情”というのがどういうものか、説明できなくもないですが、僕ができる仕方で漱石は書いていませんし、それは漱石の意にそぐわない気がするのでやめておきます。
読めばわかります。
語り手は畫工(ゑかき)で、一応絵をかきに来ています。
そうですね、(一応の)主人公が芸術家というところはトーマス・マンの「トニオ・クレーゲル」なんかと同じで、結局題も同じでしょうが、草枕はトニオ・クレーゲルと違って深刻さはありません。
トニオ・クレーゲルは人情の中から世をみて、草枕は非人情の中から世をみているわけです。爽やかです。
漢文の引用がやや多い
猫の話も坊つちやんも、漱石のものはそうですが、漢文の引用が多いので知らないとちょっと何を言っているのかわからないことになります。
僕も例えば「温泉水滑洗凝脂」位はわかりましたが、わからないものが結構ありました。
とりあえず読むときは註に頼って、後でまた勉強しよう・・・
草枕では漢詩のみならず、やき物、書、絵と幅広く話にあがります。
文語と口語が入り乱れている
これまた漱石の特徴かもしませんが、基礎は口語だけれども細かいところはその場その場で自由自在、音便なんかも使われたり使われなかったり・・・
この辺はよく観察してみると面白いですね。
まあでも基本は口語なので、文語が読めないという人も、読めないということはおそらくないと思われます。
感想やらなにやら
構成は猫の話のように、ある一つの視点から周りをみるものですが、
草枕に至ってはそこがなんとも微妙な効果を出していて、話のほとんどは冒頭山登りをしていた男の考えであるわけですが、物語の主人公としては御那美さんの力のほうが大きい。
そして途中の茶屋のばあさんや、和尚さんやその他の人も出番は多くないものの相当強いキャラクターをもっていて、それが話の進む力にさえなっているようです。
全体の筋はあってないようなもので、昔話のようにきれいな筋はもっていず、外面的な筋というよりは、小説の内面的な問題を吟味するように進むのですが、
それでも上手いこと話にはなっていて、盛り上がる所はもりあがり、読んで冷やとするところもありました。
僕はそういうところ(作り)は本当に見事だと、また不思議だと思います。
また見えない筋のほうは、一応段落のつくものの結局ぷつと途切れたままのようで、また次の話に繋がっているようです。
漱石は本当におもしろい
漱石を読むたびに、なんでこんなに面白いんだろう、と本当に不思議な気持ちになります。
漱石は人情世界では苦虫を嚙潰したようなおもいをしたようですが、小説になるとうってかわって本当に面白い。
いや、まあそれこそ草枕に書いてあることのひとつですが。
草枕が出版された当時、かなり人気で、また売れもして、称賛の手紙も相当届いたようです。
つまりそれだけこの内容に共感するひとが多かったというわけでしょうが・・・昔はそういう人が多かったのでしょうか?今に照らして考えるとちょっと信じられません。
草枕を僕は岩波の漱石全集で読みましたが、絶版でやや手に入りにくいです。
新潮文庫↓等は簡単に手に入ります。(新表記です)
人間関係に悩んでいるとか、現代社会が生きにくいとか思っている人にはいいかもしれません。
とにかく漱石の小説は面白いんで、読んだことが無い人は一度読んでみるといいでしょう。
初めて読むなら坊っちゃんあたりもいいと思います。痛快です。
こんにちは。漱石は明治の作家なのに本当に面白く、たまーーに読みたくなります。個人的には「門」が好きなのですが。「草枕」にはまだ手をつけていないのでぜひ読んでみます。クラシックの記事も参考になりました。私もブログで本のことなど書いていますので、よければ見てやってください。
森野カナタさん
ご訪問ありがとうございます。
漱石の文の見事さには本当に驚かされるばかりです。
僕は明治から大正あたりの古い物を中心に読んでいるので、ご参考になるかわかりませんが、よければまたいらしてください。