前回のこの↑記事の最後に岩波文庫の「100冊の本」を紹介したが、その中にファラデーの「ロウソクの科学」という本がある。
僕は記事を書きながらロウソクの科学を読んだ当時のことを思い出していた。
僕と「ロウソクの科学」の話
まあ当時といっても数年前の話であるが、
僕はなるべく電気に頼らず生活したいと考えていて、電灯にかわる最も手軽な灯りとしてろうそくに注目していた。
そうして、確か、家の非常用のろうそくを試しに灯してみたりしていた。(今考えると非常用のろうそくを通常時に灯すというのはあまりすすめられたことではない。)
そんなある日、先生と書店にいるときに、関心があると目に入るもので、ロウソクの科学が僕の目に飛び込んできた。
先生にきくと、読んでみると良い、というので、僕は読むことにした。
僕は先生のいうことはよくきく。
これがことの発端であった。
僕は何かを始めて、それが型にはまると、とことんやってしまって大変なことになるのだが、この時もそれで、いや別に何か損失したとかそういうことではないのだが・・・どんなことになったかは以下に書くことを読めばわかる。(一体僕がどんな性質をもっているのか、少し露呈してしまうかもしれない)
僕はロウソクの科学をろうそくの灯りで読むことにした。
ロウソクの科学
ロウソクの科学がどんな本か知らない人のためにロウソクの科学について少し説明しておく。
ロウソクの科学はイギリスの科学者ファラデーが1860年のクリスマスの休みに少年少女のために6回にわたって行った講和をもとにした本で、扱われている化学的内容は、現代からみれば、ごく基本的なことではあるが、さすが古典の扱いをうけるだけあって、相当充実した内容をもっている。
例に一部引用するだけで子供騙しでないということがわかる。
さて、ロウソクはどんなふうにして作るのでしょうか。
中略
ここにあるロウソクは鋳型に注ぐことのできるような物質でできていると仮定いたしましょう。『どうして鋳型に注ぐことができますか』と諸君は質問なさるでしょう。『ロウソクは融解しうる物です、だからとければ注ぐことができます』と答えられそうですが、実は必ずしもそうではありません。何か実地の仕事において一定の目的を達するに最善の方法を研究していると、予期しなかった事がきわめてしばしばあらわれてくるというのは驚くべきことです。どんなロウソクでも鋳型で作れるというわけにはまいりません。たとえば・・・
個人的に一番印象に残っているのは、ろうそくが燃えるときなぜとけた”ろう”が流れ出さないか、ということで、これはろうそくを知らないとわからないかもしれないが、ちゃんと作られたろうそくは、細くても上面(火のあるところ)のふちがとけずに固まったまま燃えるのである。
これが岩波文庫のロウソクの科学。
表紙にもあるが、挿絵がたくさんあって、それがなんとも趣深い。
ろうそくに凝りだす
結局僕はろうそくの灯りだけでロウソクの科学を読み切った。
ロウソクの科学を読んでいるともちろんろうそくについて詳しくなる。
知っている人もあろうが、実はろうそくにはつくられる材料でいくつか種類がある。
パラフィン
今一般にろうそくというと、パラフィンロウソクのことで、これは石油由来のものである。
ミツロウ(蜜蝋)
みつばちの巣は働き蜂が分泌する物質でできているが、これがミツロウ。
はちみつをとるときに副産物としてとられる。
パラフィンロウソクは白いが、ミツロウは黄色い。
和ろうそく
日本で昔から作られているもの。ロウソクの科学の中にも登場する。
原料はハゼという木。
ハゼノキ
ロウソクの科学を読んでから、それまで気にしたこともなかった店のロウソク売場をみたり、ろうそく専門店にいったりした。(これがたまたまよくいく喫茶店の近くにあった)
普通に売られているロウソクで一番よく目にするのはおそらくカメヤマローソクであろうと思う。
こういうもの↓
カメヤマからは植物性のローソクもでているが、僕が使った感じからいうと、パラフィンのほうがどうも優れているように思われる。
特に本を読むときは安定した灯りが必要なのだが、植物性のものは”ゆらぎ”がおきやすいようであった。
カメヤマのパラフィンは箱に書いてあるとおり”高級”である。
植物性は環境にやさしいだろうから、ただ灯りをとるときは植物性がよいかもしれない。
蜜蝋はロウソク専門店で買ってみたが、
点けると、ろうの色もあって、黄色っぽい暖かい色の火がつく。
それに少し甘い香りがする。
夜寝る前のリラックスの目的で使うのならミツロウがもっともよいと思う。
専門店で買うとミツロウ製のものは結構高いのだが(確かそれは8時間燃焼で700円位した)、実は養蜂場等から直接ミツロウを仕入れるとかなり安く済む。
例えばこれ↓
和ろうそくは最近色々な原料から作られるらしい。
今手元に石川県の老舗ろうそく店の”高澤ろうそく”の「米のめぐみ ろうそく」という”米ぬか油”から作られたろうそくがある。
高澤ろうそくでは他に”菜の花”から作られたろうそく等も扱っている。
こういうもの↓
こういう和ろうそくは燃焼時間が長いというのではないし、値もはるから読書などには向かないかもしれない。
(高澤ろうそくの商品は高澤ろうそくのサイトや楽天市場の雅覧堂のページ等で購入できる。住んでいる地域にもよるが、楽天のほうが送料等安上がりになることが多いと思われる。)
ロウソクの科学のなかにもともと獣脂で灯をともしていたと書いてあったから、僕は自分で獣脂ロウソクをつくりもした。
まあ、ろうそくというよりは獣脂ランプである。
つくりかたは以下。
- 獣脂を用意する。
- 脂を熱してとかす。
- とかした脂を耐熱性のある容器にいれる。
- 芯をいれる。
1.脂はなんでもよいが、僕は牛か豚のものをつかっていた。
4.これも脂を吸えばなんでもよい。普通はタコ紐等だが、ティッシュでつくった”こより”でも点く。
芯の先は脂からでていなければならないが、これが難しい。
芯の吸油性と、脂からでている長さ等によって火の大きさや安定性がかわる。
これはよく研究しなければならない。
こんな風に僕は試行錯誤してろうそくをつくっていた。
ろうそくの生活
ろうそくでロウソクの科学を読み切った僕は他の本もろうそくで読んだ。
たとえば荷風の「すみだ川」なんかもろうそくの灯りで読んだと思う。
読書するときはページが隈なく照らされていなければならないから、一本だと不十分になる。
とくに大きい本のときは二本以上あったほうがよい。
読書をろうそくの灯りでするようになった僕は、日が暮れてからの生活をすべてろうそくの灯りだけで済ますようになった。
風呂もろうそく一本もって入る。
トイレに行くにも暗い廊下をろうそくの灯りを頼りにしていく。
これがやったことのある人にはわかるだろうが、かなり暗い。
蛍光灯や発光ダイオードの光に慣れた人の目にはほとんど真っ暗に感じられるだろうと思う。
どうやら日本人は部屋を明るくするのがすきなようで、ヨーロッパの人なんかからすると贅沢というか奇妙らしい。
先生とそのことについて話したが、おそらく戦時中の暗さの反動なのではないかという話になった。
それからろうそくを点けるときは必ずマッチを使う。
これをライター等で点けると、なんだろう、何か違う気がする。(これは僕のどうしようもないこだわりかもしれないが・・・)
作品としてのろうそく
前に↑の記事で書いたとおり、僕はよくギャラリーというところへ行くが、ろうそく作家なる人の展示が開かれていることがある。
燭台は造形作家の人がつくったものをたまにみるが、ろうそくを専門に作っている人は少ないと思う。
僕が何度か会っている作家さんは、猫をモチーフにろうそく(というかキャンドルというべきなのか)をつくっているひとで、パラフィンのものが多いが、ミツロウのものもある。
パラフィンのものは、どうやるかは知らないが、綺麗な色がついたものがあって、また香りもつけられるらしい。コーヒー等の香りのものがあった。
これはその作家さんがつくったろうそくである。
こういうとき会場の写真をとっていれば猫のかわいらしいろうそくをみせられるのだが、僕は普段写真は殆ど撮らないから手元にあるこのろうそくしか載せられない。(ブロガ―失格である。)
作品の中のろうそく
ろうそくは生活に密着したものだから、作品のなかには当たり前のように登場する。
そういえばろうそくではないが、ジャン・バルジャンもミリエルの燭台を盗む。
ハイドン作曲 交響曲第45番「告別」
この曲の終楽章は演奏者がろうそくを消しながら次々と退場してゆくという面白い曲。
Haydn “Farewell” (pt 4 of 4) Igor Gruppman
今演奏にろうそくを使わないから、退場するだけの演奏もあるが、この演奏では灯りを消して退場している。
最後舞台にはヴァイオリン奏者(二人)だけが残る。
ヘッセ作 夜
他に僕の印象に残っているのはヘッセの詩で、確かゲルトルート(邦題:春の嵐)の中に登場する。
Nacht
Ich habe meine Kerze ausgelöscht;
Zum offenen Fenster strömt die Nacht herein,
Umarmt mich sanft und läßt mich ihren Freund
Und ihren Bruder sein.
Wir beide sind am selben Heimweh krank;
Wir senden ahnungsvolle Träume aus
Und reden flüsternd von der alten Zeit
In unsres Vaters Haus.
一行目のKerzeがろうそくで、
私はろうそくを消した;
開いた窓を通って夜が流れ込み、
・・・という内容
ヘッセは一昔前まで日本人が好いた作家だったようだが今はほとんど読まれないらしい。
日本で印刷されたものでドイツ語のものは今手に入れるのが難しい。
というので僕はsuhrkampのものをドイツから取り寄せた。
これはほとんど全集のようなものだが、送料を入れて2000円しなかった。
ドイツ語の学習によいと思われる。
日本語版は新潮の高橋健二訳が手に入れやすく定番
新潮の世界詩人全集等にも入っているが、掲載作品が違う。
上に書いた「夜」は文庫には入っているが、世界詩人全集のほうには入っていない。
かなり話がそれてしまったようだが、ロウソクの科学を読んで(しまったばかりに)、僕はろうそくを実際に使うようになり、かなり長い間ろうそくの灯りだけで暮らしていた。
ろうそくは種類によって使い心地が全く違い、用途によって使い分けたりすると面白い。僕は専ら実用的なことだけに使っていたので、インテリア的なことはあまりしらないが・・・
今は当時ほど徹底して使ってはいないが、夏の間はまたろうそくを使おうと思う。
僕ほど徹底する必要は全くないが(笑)、ろうそくの光は落ち着くし、たまには部屋の電気を消して静かな時間を過ごしてみてはどうだろうか。
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