百年戦争がヨーロッパ大陸に三和音をもたらした話
みなさんの大好きな音楽は大体、機能和声音楽(コード進行)を伴うものでしょうけれど、その根幹となる”三和音(例えばハ長調におけるドミソ等)”もしくは三度や六度の和音がヨーロッパ大陸にもたらされたのは意外と最近です。
知っていましたか?
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番外編
百年戦争以前(中世)の音楽
百年戦争以前の大陸(フランス)の音楽は、伝統的な教会音楽(8度や5度中心)で三度の音程も増えてきてはいたものの決定的ではありませんでした。
ではそのころの音楽がどのようなものであったかきいてみましょう。
代表的な作曲家ギヨーム・ド・マショー (1300-1377)の
ミサからアニュス・デイ
きいてもらうとわかると思いますが、バロックやらクラシックやら、もしくは現代のロック、ポップなんかとは作りが全然違います。
それが百年戦争をはさんでガラリと変わることになりました。
百年戦争(1339~1453)
百年戦争というのはイギリスとフランスが領土をめぐって百年以上にわたって争ったものです。
アンジュ―伯ヘンリ2世がひらいたプランタジネット朝(1154~)は地図を見てもらえばわかる通りフランス国内に広大な領土をもっておりました。
しくじったジョン
それがジョン王の時代(1199~1216)、フランスのフィリップ2世との戦争に負けて、ギュイエンヌという地方を除いて大陸領をフランスに占領されてしまいます。
こうして領土が激減したので、
ジョンは”欠地王”と呼ばれています。ひどい
そんなこんなで領土が激減したイングランドですが、1337年にイングランドの王エドワード3世がフランスの王位継承権を主張してフランスに侵攻します。
これが百年戦争の始めです。
この戦争は、まあ色々あって最終的にかのジャンヌ=ダルクの活躍で、フランスが勝利しイングランドは結局大陸領を殆ど失ってしまうのですが、途中優勢な時期があってフランスのイギリス海峡に面する広大な地域を占領していました。
そんな戦争末期イングランドからフランスのイングランド領に渡航した音楽家がいました。
ジョン・ダンスタブル
百年戦争末期、ヘンリ6世の摂政ベッドフォード公ジョンに随伴してやってきたのが、イングランドの音楽家ジョン・ダンスタブル(1390~1453)でした。
彼は1430年から40年代にかけてイングランド領フランスに滞在し、イングランド特有の三度音程や六度音程を優先させた和声やホモフォニー的音楽をフランスに伝えました。
彼が考案したといわれるものに”フォーブルドン”があります。
これは6の和音を連続して使うもので、ちょっと何をいっているかわからないかもしれませんが、とにかく、近代の和声らしいものです。
ダンスタブルの影響
ダンスタブルの影響でフランス音楽に新たな風が吹くことになります。
これ以降を音楽史ではルネサンスといいます。
そのころの代表的な作曲家にギヨーム・デュファイ(1400~1474)がいます。
彼は1400年生れですから、若いころはまだフォーブルドンが入ってきていず、マショー風の固い響きがみられます。
しかしフォーブルドンを身につけた後年のデュファイの作品は高度に洗練されます。
後年の曲を実際に聴いてみましょう。
ミサ アヴェ・レジーナ・チェロールムから
キリエ
アニュス・デイ
サンクトゥス
マショーと聴き比べるとやっぱりデュファイのほうが近代的ですね。
日本ではルネサンス以前の音楽はあまりなじみがないかもしれませんが、大作曲家はルネサンス以前にもたくさんいます。近年は録音も多くなってきているので、機会があればきいてみてください。
イギリスの音楽
クラシックだとイギリスの作曲家は殆どでてこないので、イギリスというと音楽後進国のような感じがしますが、
ルネサンス音楽を興したのはイングランドの音楽とダンスタブル等楽家達ですから、ものすごい重大な役割を果たしたことになります。
バロック、クラシックの時代もヘンデル、ハイドン、クリスティアン・バッハ(バッハの息子)等、島に渡って活躍した音楽家は多いですから、音楽自体は盛んだったようですね。
終りに
ノルマンコンケストで英語にラテン系の言葉が入り、百年戦争期には逆にイギリスからフランスへ音楽が伝わった。
フランスがイングランドに占領されていなかったら大陸の音楽はどうなっていたのでしょう。今の音楽の在り方も変わっていたかもしれません。
こうみると”音楽外の要素”が音楽に大きな影響を与えることがわかりますね。
今回は今まで殆ど扱ってこなかった”音楽史”を書いてみました。
音楽史というか半分は世界史でしたが・・・
授業の世界史はあまり面白い物ではありませんでしたが、
こうやってみると、歴史と音楽が繋がって面白いですよね?
僕は何故か宗教音楽史にちょっと詳しいので、
また気が向いたら書いてみます。
参考
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