2016年3月22日投稿 2017年1月26日更新
バッハの音楽の録音はとにかくたくさんあってどれを選べばいいのか難しいところです。
僕はこれまで結構な数のCDを聴いてきましたが、今回はその中から本当に名盤だと思うものを紹介します。
バッハ演奏 不朽の名演
バッハの演奏には現代の奏法によるものと、当時の奏法(古楽)によるものがありますが 、特に分け隔てずに紹介します。
1、パブロ・カザルス 無伴奏チェロ組曲
パブロ・カザルス
パブロ・カザルス(1876-1973)はチェロの現代的な奏法を確立し、バッハの無伴奏チェロ組曲を世に広めた人として有名です。
現代では”古楽演奏”の影響が強いため、今やカザルスのバッハ演奏は、その範を成すとはいえないかもしれません。
しかし、カザルスの演奏というのはそういうものを抜きにして永遠に輝くものをもっています。
そのまるで大地の鼓動を聴くようなスケールの大きさにただただ心奪われるばかりです。
1971年 カザルス94才の時、国連で、平和を願い故郷カタルーニャの「鳥の歌」という曲を演奏し、その演奏は世界中に配信されました。
Pau Casals: Song of the Birds
鳥が平和を叫んでいる、とカザルスはいっています。
あまりの音楽の力に言葉がでません。
無伴奏チェロ組曲
曲集は題一番から第六番までの六曲でなっています。
無伴奏なわけですから、伴奏なしに楽器ひとつで音楽をつくりあげます。
しかし楽器ひとつだからといってその規模が小さくなることはなく、むしろバッハの天才によって無限の広がりをもっています。
六曲はそれぞれ違う顔をもち、言語を絶する美しさの傍ら、僕たちの日々にそっと寄り添うような暖かさ、親しみやすさがあります。
無伴奏チェロの他のおすすめ
アンナー・ビルスマは古楽演奏の草分けの一人ですが、カザルスと聴き比べるとその差に驚きます。
ビルスマの演奏はカザルスとは全く違ったスタイルでバッハを演奏しています。
ビルスマはバッハの曲は”歌う”ものではなくて、”語る”ものだと考えていたようです。
無伴奏バイオリンの名盤
無伴奏バイオリンはシェリング盤や古楽演奏ではクイケン盤
など、たくさん名盤がありますが、昔からよく名盤といわれているのがこのシゲティ盤です。
それと同時に難癖をつけられやすい録音でもあって、というのも”技巧的”演奏ではないからだと思われます。
ただ、その“精神性”からいえば非常に高いレベルにあって、結果的に気に入るか気に入らないかはとりあえずおいておいて、一度聴いてみる価値はあります。
2、グレン・グールド ゴールドベルク変奏曲
グレン・グールド
若き日のグールド
グレン・グールド(1932-1982)はカナダのピアニストで、その奇癖で色々と話題になった人です。
1956年に初のCD「ゴールドベルク変奏曲」でデビューするや否や、全米のチャート第一位を獲得しました。
その後演奏活動から身を引き、録音に生涯をかけました。
このCDは1981年、つまり死の前年に録音されたものですが、初めて聴いた時本当に息をのみました。僕がピアノという楽器に期待していたものを遥かに超えていたからです。
グレン・グールドの演奏は「パルスの継続」という独自の理論に貫かれていて、常人には図り知れませんが、その演奏は完全と云うにふさわしい。
精神の安定、均整、そこからでる計り知れない美しさ、喜び、はかなさ。
ゴールドベルク変奏曲
グールドが演奏する前、この曲は全く有名でなかったようですが、グールド以後その知名度は跳ねあがりました。
曲は同じアリアに挟まれ、その間にそのアリアに基づく三〇の変奏があります。
三曲ごとにカノンが置かれ、同度のカノンから一つずつあがり九度のカノンにまで達します。
長い変奏を経て、最後に冒頭のアリアが戻ってきた時、僕たちは始めとは違う自分に、世界に、導かれているのです。あの感覚、感動はなんともいえません。
ボイジャーに搭載されたレコード
バッハの演奏に全生涯をかけたグールドの演奏は、宇宙探査機ボイジャーのゴールデンレコードに収録され、全人類を代表する音楽の一つとして宇宙へ旅立ちました。
グールドの他の名盤
グールドのバッハの録音はどれも素晴らしいのですが、平均律クラヴィーアなど聴いたことがなければ是非聴いてみるとよいと思います。
3、カール・リヒター指揮 音楽の捧げもの
カール・リヒター
カール・リヒター(1926-1981)はドイツの指揮者、鍵盤楽器奏者で、指揮、演奏は完璧な暗譜により、すべてを把握していたといいます。
リヒターの演奏は始めから終りまで貫かれる、ちょっと信じられないエネルギー、精神力があります。
バッハの指揮においては右にでるものはなく、多くのCDが評論家からも絶大な支持を得ています。
このCDではリヒターがチェンバロ、指揮を担当しています。
音楽の捧げもの
この曲は面白い逸話のある曲で、「王のテーマ」という主題に基づいて、全音楽がつくられています。
バッハ最高の対位法技術により、種々のリチェルカーレ、カノンが演奏され、最後にフルート、バイオリン、通奏低音(チェロ、チェンバロ)のトリオソナタが置かれています。
この曲は親しみやすさという点からみれば、良くないかもしれません。
ただ親しみやすさなどこの際関係ありません。ドイツの、バッハの、最高の音楽がここにあるわけです。
この曲が少し前ネットで話題になったとききました。
その時はバッハの対位法技術の神業が紹介されたようですが、この曲は”業(技)”だけではありません。
このCDではその対位法技術に支えられて、最高の「音楽」を聴くことができます。
リヒターの他の名盤
リヒターもたくさんの名盤をのこしていますが、なんといってもカンタータの録音は素晴らしいものです。
カンタータは宗教色が強いのでとっつきにくいかもしれませんが、本当に美しいものですから、チャレンジしてみてください。
バッハの音楽とバッハ演奏
バッハの音楽は、決して”易しい”ものではありません。それは演奏者の側のみならず、”聴く側”にも努力が求められます。
しかし、こちらが聴こう、理解しようと思えば、そこに無限の世界、よく例えられように、「小宇宙(コスモス)」が開けてきます。
またバッハの演奏に身を捧げた巨人たちの強靭な精神は、僕たちに弛みない鍛錬の大切さを教え、その最高の模範となってくれるのです。
以上、バッハ音楽 不朽の名盤三選+αでした。
ダグラス・R・ホフスタッター著の「ゲーデル、エッシャー、バッハ」を読み始めてここにたどり着きました。すごく参考になった。他の記事も拝見しました。
またの更新を楽しみにしております。